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AM義足ができるまで
山中研メンバーインタビュー

2008年に慶應義塾大学山中デザイン研究室で生まれた「美しい義足プロジェクト」。2013年に教授の山中の拠点が東京大学生産技術研究所に移ってからも研究は続いています。今回は、現在、MIAMIプロジェクトとして義足開発に関わっているメンバーたちに自由に話してもらいました。

ー 「どうして山中俊治が義足を作り始めたの?」ということを知らない方もいると思うので、義足プロジェクトがスタートしたきっかけを教えてもらえますか?

山中:映像で義足のアスリートの走りを見たとき、人とものとの究極の関係の一つがスポーツ用義足かなと思った瞬間がありました。その後、実際に選手たちの義足を見たら、工業製品としてはまだまだ未完成なものだったので研究として始めてみたんです。そもそも、大学の先生になったら、デザイナーがあまりデザインしないものを作ってみよう、という気持ちもあったので。

ー そんな「美しい義足プロジェクト」の5年目にして、AM技術(3D プリンティング)を使い始めた理由はなんですか?

山中:義肢装具士さんに一つずつ手作りしてもらうという、美しい義足プロジェクトでのやり方に限界を感じていました。義足は使用者の切断の状況もサイズも一つひとつ違うので、きちんとデザインしようとすると、すべての義足に対してデザイナーが一人、義肢装具士が一人かかりきらないと世に出すことができません。それに対して、AM技術の特徴としてうたわれている「マス・カスタマイゼーション」というのは、まさに私たちが求めていた生産システムでした。一つひとつ違うものを個人のために特注するためのツールとしてAM技術が有効なのではないかと思ったのです。

ー これまでで大変だったことはありますか?

佐藤:まず、コンセプトスケッチの段階からMIAMIプロジェクトの他のメンバーたちに「これは無理だ」と言われてしまいました。みんなAM技術のプロみたいな人たちですが、ナイロンといういわゆる弱い素材で、強度の必要な義足のようなものをつくるのは、常識的でないと。

都甲:3Dプリンタを使い始めたときは、絵に描いた餅のような、やってみるまでわからない部分が大きかったです。でもだんだん使っているうちに、こうやったらうまくいきそう、みたいな感覚をそれぞれが身につけてきた。3Dプリンタの利点である、頭のなかで考えたものをすぐにかたちにする、ということをたくさん繰り返せました。

佐藤:いろいろ作ってみているうちに、今なんとか使えそうなところに来ていることは、周囲のこれまでの感覚をくつがえしていることでもあります。

山中:今回のデザインに使われているネットワーク構造というのは、思ったよりずっと強いんだなということもわかりました。最初はとりあえずナイロンで作ってみて、ある程度できるようになったら、ナイロンじゃない強い素材ができるのを待とうと思っていました。

ー ネットワーク構造という話が出ましたが、この義足ソケットはどうしてこのかたちになったのでしょう?

山中:最初は肉抜きしたフォルムを考えていたね。

佐藤:3Dプリンタは複雑で細かい有機的なかたちを作れるので、葉脈や虫の翅、水のパターン、骨の組織のような、自然物の構造などの写真をいっぱい集めて、どういうデザインでいくか話し合いました。その中でも、骨は必要なところだけ成長していらないところはスカスカのまま、という話を知っていたので、骨に近い構造というのは早いうちに考えていました。

山中:これを造型するのはあまりに大変なのはわかっていたけれど、とりあえず一回やってみるかと。非常に複雑なネット構造をつくるというのは3Dプリンタの流行りでもありましたし。

もうひとつはこれまでの義足プロジェクトで採用していた二重構造(注1)を脱したかったんです。人にフィットする部分と外観を整える部分、つまり実用面と造形面を、もしかしたらネットワーク構造にすると同時に設計できる可能性もあるのかなと思いました。

注1:慶應義塾大学で開発をしていた高桑早生選手モデルのRabbitシリーズでは、義肢装具士の採型したソケットの周囲に発泡樹脂等を充填し、それを彫刻的に削ることで外観を整えていた。

ー AM技術で走行可能な義足をつくるというチャレンジングなプロジェクトに参加してきて、心に残っていることはありますか?

都甲:いろいろありましたけれど、最初に早生ちゃんが履いたときは、感動しました。

佐藤:人工物と生命体の中間のような、これまでにないSFっぽい感じがワクワクしたね。

都甲:画面上のCADモデルでは何回も見ていて、ふーんという感じでしたけど、それが3Dプリンタで造型されたとき、ほんとにこんなのできるんだと一段階目の感動があって、さらに早生ちゃんが使って、人を含めた全体として美しいなと感じたとき、このプロジェクトに参加してよかったな、と思いました。

佐藤:いろんな期待や驚きを与え続けられている手応えがあります。案外いけました!という驚きだったり、義足アスリートの練習会に作った義足を持って行ったとき「こんなのできるの!」って感想をもらったり。世の中にないものを提示する楽しさがありますね。

ー これからの目標はなんですか?

山中:ひとつは、早生ちゃんが走るところを早く見てみたいです。そしてそれとは別に、他のプロダクトにもこの手法や考え方が応用できるのかを試したいです。それはウェアラブルなツールかもしれないし、義足以外の装具などかもしれない。

佐藤:現状ではモデリングの手間が尋常でないので、どうにか新しい効率的なプロセスを取り入れていかないといけません。考えて、試して、結果を見て、また試す…というサイクルが回らないので。

日下部:今後はモデリングの自動化という話になると思うのですけれど、そのためにはデータベースみたいなものが必要になってきます。でも今はそれ以前の段階にいるんです。義足のソケットへの力のかかり方などを直接計測したいのですが、それが難しいので数理的に解析して、最適化するということが必要です。最適化に関しても課題は山積みなんですけれど。

だいたいこのくらい、というアバウトさがあってもいいのかもしれないのですが、まだその手加減がわかっていないので、これからも研究を続けていきたいです。